自分から声をかけられない、みんなの視線や人前で喋ることができない、こんな悩みをかかえてはいませんか?
この連載ではサイレントセールストレーナーの渡瀬 謙氏の著書「内向型の自分を変えたい」と思ったら読む本」から、そんな悩みを抱えて生きる方へ同じく自らの性格に40年以上、悩んできた渡瀬さんが培ってきた内向型人間の「弱み」を「強み」に変えるまでのお話を抜粋してご紹介します。
#22から第5章のつづきで社会人になって営業職に就職してからのお話となります。
#1はこちらから
第5章 仕事はストレスを減らすことを重視すればいい 2/5
■ 仕事は一生つらいものなのか?
しかし、現実はやはり甘くはありませんでした。
とくにノルマなどがない、今思えばゆるい会社だったのですが、それでも接待など苦手なことがついて回りました。
なかでも、大勢の人前で新商品の発表をする場があり、営業マンが持ち回りで担当していました。
その担当になったとき、発表する日の1週間前から神経性の胃痛になり、食事がのどを通りません。
ほんの10分程度の説明文を毎日暗唱して記憶しました。
そして当日、私は生まれて初めて演壇にあがって、人前で話し始めました。
暗記したセリフを棒読みするだけです。
早く終わりたい一心だったので、おそらくかなり早口になっていたと思います。
すると、途中で私の話が止まってしまいました。
記憶していたひとつの言葉を度忘れしてしまったのです。
やはり緊張であがっていたので、練習通りにはできないもの。
今でこそ、セリフを忘れても何とか立て直すことができますが、そのときはその言葉を思い出さないと先に進めませんでした。
しばらく壇上で天を見上げていましたが、そのとき客席の一番前に座っている人が、そんな私を見て、クスッと笑ったのが目に留まったのです。
その瞬間、すべての記憶が飛びました。
もうダメだ。
そう思うと、私は黙って頭を下げて、演壇から降りました。
そうです、途中で逃げ出したのです。
そのあとは、上司がうまくフォローしてくれたようですが、そのとき「もうこんな仕事はイヤだ」と心底思いました。
結局その会社には4年ほど勤めましたが、毎日辞めることばかり考えていました。
当時の日記を読み返してみると、精神的にかなり追いつめられていたのが読み取れます。
内向型の性格で集団のなかで生きていくのはつらいというのは、子供の頃からわかっていました。
そういうものだというあきらめに似た感情もありました。
一生このままなのかなと思うと、絶望的なむなしさがあります。
自分は何のために生きているんだろうなどと、何度も考えました。
会社を辞めたい。
その気持ちはどんどん大きくなっていったのです。

■ 転職してようやく自分が見えてきた
クレームが多い商品だったという理由で最初の会社を辞めたこと。
その後、自分の営業力を試すためにリクルートに転職したことはすでにお話ししました。
転職したときは、もちろん不安でいっぱいでした。
また新しい仕事を新しいメンバーとやらなくてはならない。
それでも自分の営業力を試すためだと言い聞かせて臨みました。
もしダメなら今度こそ営業以外の仕事を探せばいいと割り切っていました。
そして自分なりに頑張った結果、実際にトップ営業になったのもすでにお話しした通りです。
私はそれまでの生涯のなかで、何かで一番になったという経験がありません。
一番になるとどうなるのかを知らなかったのです。
ガラッとまわりの対応が変わることを想像していたのですが……。
意外と、社内の居心地は変わりませんでした。
もちろん、一目置かれる存在にはなれましたが、そこまでです。
まあ、性格が変わったわけではないので、すぐに仲良くできるものではないのだなあと思いました。
そしてこのときの体験が、私の価値観を大きく変えてくれたのです。
まず、営業という職業について。
営業は明るく元気でしゃべり上手なほうがいいと思い込んでいたのですが、そうとばかりは言えないことがわかりました。
私が売れなかった半年の間、何を頑張っていたかというと、しゃべりの練習でした。
うまくしゃべれば売れるようになると思い込んでいたからです。
ところが結果は出ませんでした。
売れるようになったきっかけは、実はしゃべる練習を止めたからなのです。
明るく振舞うことも止めて、できるだけ素のままで客先に行くことを心がけると、不思議なくらいに売れるようになりました。
これは私の中ではうれしい誤算です。
なぜかというと、内向型の性格のままでも通用する仕事があることがわかったからです。
しかも、内向型が最も敬遠しがちな営業職で結果を出せたことは、大きな自信につながりました。
それは仕事で成果を出しても、会社を辞めたい気持ちが変わらなかったことで気づいたことでした。
そう考えると、学生の頃に学校に行きたくなかったのも、社会人になって大勢の飲み会が苦手なのもすべて理解できます。
私は集団のなかにいると極度のストレスを感じるタイプの人間だったのです。
ここでようやく自分が見えてきました。
28歳のときでした。
そしてそのあと人生の大きな方向転換をすることになるのです。
