自分から声をかけられない、みんなの視線や人前で喋ることができない、こんな悩みをかかえてはいませんか?
この連載ではサイレントセールストレーナーの渡瀬 謙氏の著書「内向型の自分を変えたい」と思ったら読む本」から、そんな悩みを抱えて生きる方へ同じく自らの性格に40年以上、悩んできた渡瀬さんが培ってきた内向型人間の「弱み」を「強み」に変えるまでのお話を抜粋してご紹介します。
#2では人生がかわった”あるきっかけ”についてのお話しです。
#1はこちらから
なぜ、超内向型の私がストレスだらけの日々から解放されたのか? 2/3
■ 編集者のひと言が、人生の転機になった
もちろん大人になるにつれて、それなりの処世術も身についてきます。
子供の頃には全然できなかったことでも、多少はできるようになります。
自分的に満足しているわけではありませんが、初対面の人とも何とか話をするくらいなら可能になりました。
それでも私の心にはいつも靄(もや)がかかっていました。

ところがあることをキッカケにして、視界がスッと晴れたのです。一生続くものだとあきらめていたモヤモヤとした気持ちが、きれいに消え去りました。
それは、私が5度目の転職をして、43歳になったときでした。それまでの営業経験を活かして、「しゃべらなくても売れる営業マンを育てる」ことをモットーに、企業研修の仕事を始めることにしました。そのときに本を出版したことがきっかけです。
なぜ私が営業を始めたのか、なぜ研修講師になったのか、そしてなぜ本を出せることになったのか?
そんな疑問が出てくるでしょうが、その経緯については大事なポイントでもあるので、この先で詳しくお話ししていきます。
なので、ここでは本を出すことになった時点から話をスタートさせてください。だからといってそう簡単に本が出せるわけではなく、現実にはかなり苦労しながら出版にこぎつけました。
ただ、私が考えていた内容とはかなり違う本になりました。自分では自信がある企画だったのですが、編集者はなかなか納得してくれません。そのときのやり取りです。
「渡瀬さんは子供の頃はどんな子だったんですか?」
「まあ、おとなしい子でしたね」
「どのくらいおとなしかったんですか?」
「クラスで一番しゃべらない感じでした」
「そうですか、休み時間とかもしゃべらなかったんですか?」
「そうですね……」
肝心の企画の内容よりも、私の子供の頃の話を聞きたがるのです。しかもできれば思い出したくないような「負の記憶」ばかりを質問されました。正直言ってこれには参りました。自分の情けない過去を言わされるのは苦痛以外の何ものでもありません。
そんな私の気持ちなどはお構いなしに、編集者は質問を続けます。
そして、最後にうれしそうに、
「渡瀬さん、これでいきましょう!」
「これ、というと?」
「内向型ですよ!」
「内向型、ですか……????」
この人はいったい何を言っているんだろうと思いました。内向型なんてマイナスになるだけで、少しもいいことがないじゃないか。それを前面に出そうなんて馬鹿げている。何よりもそんなことを書きたくないという気持ちしかありませんでした。
編集者の言い分はこうです。単なる営業のノウハウを本にしても、他の類似本のなかに埋もれてしまうだろう。それよりも独自性を出して、特徴づけたほうがいいと。
確かに一理あります。無名の私が書いた本など、誰も見向きをしてくれないというのもわかります。しかし、だからといって、内向型というマイナス情報を売りにするというのは、どうかと思いました。正直に言って、断ろうかとも考えました。
結局は、どんな形でもいいから本を出したいという気持ちが勝って、OKしたのです。
■ 1冊の本が示した予想外の結果
そして、いよいよ本が発売されることになりました。その時点でも私はまだ不安でいっぱいでした。自分がいかに内向的な人間かということを、これでもかと書き込んでしまった本が、全国の書店に並ぶのです。不安というよりも恐怖でした。
「こんな情けないヤツが書いた本なんてダメだ」
「渡瀬ってこんな人間だったんだ、じゃあもう付き合うのを止めよう」
知人も含めて日本中から嫌われる存在になってしまうんじゃないかと怯えていたのです。自分の本当の性格を人に知られる恐怖は、これを読んでいるあなたならきっとわかるでしょう。
ところが、です。
発売されてすぐに、私の生活が変わり始めました。雑誌やテレビの取材が次々に入ってくる。企業からの仕事の依頼が来る。次の出版の話が来る。その本がたくさんの仕事を生んでくれたのです。また、読者からは毎日のようにメールが届きました。もちろん「この本を出してくれてありがとう」というお礼の内容です。正直、驚きました。
しかしもっと驚いたのは、友人・知人の態度です。私的には、まわりの人がみんな離れていくんじゃないかと思っていましたが、実際にはその逆でした。以前よりも親しげに近づいてきてくれたのです。その理由は後ほどお話ししますが、結果として自分のマイナスの性格を表に出したことで、人との距離がグンと縮まりました。
「自分は内向型人間だ」と言っていいんだと、そのとき初めて知ったのです。
本が売れて仕事が軌道に乗ったことよりも、自分の性格がまわりに受け入れられたことのほうが、私には衝撃でした。
そのことをキッカケにして、私はこれまでの重苦しい人生から抜け出すことができたのです。
